1998 6m&Down Contest
電信50MHzバンド 徹底分析

「JI1ACI(栃木) vs. 7M4CQN/1(千葉)」

JI1ACI 中川
JN2FCL 浅岡

★はじめに
今年の6&Dは思わぬ乱入者の存在で過去に例を見ないほどの混戦ぶりだった.今回、その熾烈なバトルが繰り広げられた舞台は電信50MHz部門である.
V/UHF主体のコンテストであるために移動局優勢は一般的に言えることだが、コンディションボトム期ほどその有利さは増してくるはずだ.しかし、なぜかC50の関東エリアは常連固定局勢が上位を独占.独占を阻止するべく立ち上がったのが7M4CQNであった.まさに殴り込みをかけたのであった. 今回の役者は、北のJI1ACIに対して南の7M4CQN.固定局vs移動局、また地理的にも全くの正反対(北関東と南関東)の両者がどう展開していくか非常に見応えがあると言えよう.
JI1ACIは北関東の栃木県から.北関東と言うと、田舎で山ばかりというイメージが先行してしまうが、ACIは自慢の500W電力に加え10エレ八木でこの6&Dに臨んできたのであった.北方面には7エリア北端まで飛ばすだけの力がある.しかし、西方面と言えば関東平野を取り囲む山々が障害となって若干のハンディを背負う.首都圏、特に大票田東京へは直線にして80km離れているためにこれまたCQNに比べると不利な要素になっている.しかし、500W+10eleで臨んでくるため、これはまさにCQNにとって脅威と言えよう.
一方で挑戦者の7M4CQNは南関東の房総半島南部から全国制覇を狙うべく挑んできた.ロケーションは首都圏をほぼ完全にカバーでき、かつ西方面は海上伝搬で稼げるポイントでの運用だ.関東地方屈指の移動場所であり、GW勝負であれば間違いなくACIに勝てるポイントである.東京までは見通し距離であり、東京湾までは僅か7kmという好位置にある.また、房総半島はそれほど激戦ではなく、それ故に抑圧に対する心配も殆どない.しかし、今回はV/UHFメインのコンテスト.油断は禁物である.
設備や地理的条件などを考えると、前者はACI優勢で後者はCQNが有利である.したがって、総合的には互角に近いと思われる.しかし、その反面で彼らには決定的な差があった.それは、ACIはC50の常連であるのに対しCQNはマルチバンダーの常連.常時コンデションを把握していないCQNにとって、何もかも知っているACIはかなりの脅威に感じられたに違いない.つまり、いつどこへビームを振って稼げるかを熟知している者は絶対に有利である.
ACIの10エレに対し、CQNは6エレに加えて新たに8エレを導入.少しでも固定局に近づこうとする姿勢が見受けられる.1本vs2本、果たしてどちらがどのような効果を上げたのか? 時間単位、分単位で刻々と変化する状況をグラフ化したので以下のバトルと平行して見て頂ければ幸いである.

★スタートダッシュ(21時台)
スタートダッシュは両局共に首都圏を狙ってのRUNである.ともに66QSOをマークしているが、開始早々から両者には明らかに異なる点があった.それはマルチの獲得地域である.ACIは6エリアを、一方CQNは8エリアをそれぞれFAIや弱いEsで取っている.これは明らかにスタートダッシュで使った首都圏向けのビーム方向から生じたものである.ACIは南西ビームで首都圏を狙ってきたが、CQNは全く反対の北ビームで狙ってきたのであった.おそらく、関東では6/8両エリアとも同時に入感していたのであろう.CQNが22時台には西方向ビームで6エリアとQSOしていることがそれを裏付けている.

★序盤戦(22時〜00時台)
開始後1時間のQSO数は両者共66QSOと互角であるが、その後はハイペースでCQNが圧倒して行く.開始後3時間で36QSOも差がつく時もあった.
大票田を見通し距離内に入れるCQNが有利なのは当然だが、ACIの不調の原因を考えてみよう.呼びまわりに移るタイミングが早すぎたと言えるかもしれない.また、南西ビームで同時に取れるはずの2/3エリアからいつもよりも呼ばれなかったことも理由のひとつに挙げられる.
CQNはマルチバンダーと引けを取らないペースで押していっている.2アンテナ制を敷いたために即座に切り換えができ、首都圏とのQSOが途切れた時などは素早く切り換えて西を狙ったQSYのタイミングが局数をのばした勝因と言えよう.
ACIのビーム方向にほとんど変化はなく、この時間も南西方向がメイン.23時台は北の様子伺いに向けた関係で@106を獲得.また、北方面の強みがあってか@02もQSOしている.しかし、時間を少しかけて北向けでRUNしたが、その後は殆ど反応がなく南西ビームになっている.西を重点に置いた戦法で2エリアを00時台、3エリアは00時台(@22除く)、そして6エリアも00時台にそれぞれ全てのマルチを埋めることができた.北関東から、かなりのハイペースで稼いでいることが伺える.
一方、CQNは22時台も続けて首都圏を狙うというマルチバンダー的考えを捨て、西日本を狙ってきたのである.西から西南西にかけての位置をこまめに修正していた.この時間に初めて6エリアとのQSOが成立し、弱いながらも両端エリアが同時にオープンしていることに気付いた.しかし、8エリアの方が安定感があり、西向けが最も強いことから6エリアとはFAIでQSOしたと思われる.CQNはアンテナを切り換えながら受信していたが、8エレで聞こえても6エレでは入感はなかった.
6エリア全域にわたってオープンしていたACIに対して、CQNは北部しか取れていない.ここでも地理的な違いが顕著に出たと言えよう.

★夜中から早朝にかけて(01時〜06時台)
一般的に夜中から明け方にかけてはマルチの稼ぎ時と言われている.しかし、互いにそれほどマルチ数を上乗せできていない.
02時台になり、ACIは西日本エリアの信号が浮き上がり始めたことを確認しているが、コンディションが上がりきらないためか、QSOとマルチ共に増えていない状態である.
夜が明けようとしている05時台にACIは早々と8エリアの信号を察知しているが、CQNはようやく07時台でQSOに至っている.その差は2時間ほどであるが、両者共になかなか局数が増えない時間故にビームをこまめに修正しながら運用しているが、CQNがいた房総半島には8エリアが入感しなかった.地域差とも言えるが、Esの場合は距離的にもCQNの方が先にオープンするはずだが、ACIも立て続けに8エリアとQSOしている訳でなく、スポット的かつ短時間のオープンであったと考えた方が正しいかもしれない.また、06時台にも北北東で3エリアがS9を超える信号で入感してきたが一瞬の出来事に終わった.このことから、明け方のコンディションは弱い伝搬が目まぐるしく変化していたと言える.日中のオープンの前兆と判断した方が良いかもしれない.
その一方で、CQNはこの時間帯は全てGWによるQSOしか成立させていない.それ故に首都圏と西日本の局数掘り起こしに精一杯であった.

★中盤戦(07時〜11時台)
ACIは早朝の05時頃から北方面のオープンを確認しているが、時間と共に07時過ぎから4エリアや5エリアとQSOし始めている.西北西と北寄りであるため、FAIでQSOを成立させていると思われる.しかし、FAIはQSBを交えた非常に不安定な伝搬でバンド内が混雑している時などは鍛えられた耳が必要である.また、08時過ぎからは再び8エリアがオープンし始め、一気に4マルチをも取ることに成功した.
では、房総半島のCQNはどうであろうか? 8エリアオープンはACIに比べて2時間ほど遅くなっている.(07時にオープン) 早朝よりかなり頻繁にビームの方向を変えていたが、06時までは殆ど変化の兆しがなかった.07時過ぎも頻繁に北へ南へと修正しながらコンディションの把握に努めた.その結果、北はFAI、南はEsが出ていることを確認.ここは慌てずに手薄になっていた8エリアから攻めに入った.かなり不安定な伝搬なため、コピーするのに時間を要したが、それでも何とか4マルチを取れた.その後は西に重点をおき、強力なScで局数を増やしていった.

★終盤戦からラストスパートへ(12時〜14時台)
12時の時点でマルチの差は10近くもあり、一時はACIが勝負を決めたかと思われた.しかし、CQNは今まで時間をかけて北を稼いでいなかったためラストの3時間を中心に北ビームで挑んできたのであった.FAIで8エリア、GWで@30に加えて期待通りに7エリア北部に呼ばれた.しかし、@02や@03の2マルチを残してしまった.過去に@03とはGWでQSOしたことはあっただけに取れてて当然のマルチを落としたことになる.非常に痛い1マルチである.
ACIは正午過ぎからのオープンをきっかけにビームをほぼ南西へと固定してきた.西日本には@22や@29といった取れていないマルチがあるだけに一層力が入った.CQN同様に@22や@29は出来るはずのマルチである.局数が少なく、レアなマルチには違いないがタイミング次第では容易に取れるかもしれない.タイミングに運は付き物です.こうしてラストを迎えたのであった.

★データから分かる両者の比較
(1)交信局数の推移について(グラフ2グラフ4
最初の1時間のQSO数は2局とも66QSOで互角であるが、その後はじりじりとCQNが優位に立ち、00時にはその差は36QSOに達した.グラフからも分かるように00時前後の差がそのまま持ち越され、最後まで差はほぼ平行線となっている.
07時頃からCQNは北方向と西方向のEsにより局数を伸ばし始める.しかし、まだACIのところではEs発生に気づいていない.局数差は一時43局に達した.ACIがEs発生に気づくのは08時近くになってからである.この時間差は南北100kmの地理的条件によるとも言えるが、CQNが頻繁にビーム方向を変えていたため、ワッチが功を奏したと見るべきであろう.08時近くになってACIがEsに気づくとRUNを中心に局数を伸ばしていく.08時過ぎには、一度離された局数差を30QSO台までに縮めることに成功した.それでも、まだ30QSOの差は追い越せない.
次の変化は11時に起こった.CQNが11時から12時にかけて局数を伸ばし、再びACIを引き離して差が42局にまで達した.この差はACIが8エリアのオープンをとらえきれなかったことや呼びまわりの効率が悪かったことが原因と考えられる.12時からACIが巻き返しを始めたことで14時には差を23局までに減らした.この間、ACIは1エリアをはじめほぼ全エリアから局数を集めている.Esがオープンして多くの局がバンド内にあらわれたのを効率よくとらえたと言える.ここでは、ACIのワッチが功を奏したと言える.
14時からのラストスパートでは、ACIがCQNに引き離され結局28局差でコンテストを終了した。結果的に、局数差は最初の3時間でついたと言える.ACIとしては、今後はこの時間帯に差を小さくする努力が必要である.一方でCQNは他の時間帯にACIを引き離すことができなかった.日中、EsやFAIによりバンド内がにぎやかになった時にACIが局数を稼いでいる.このあたりは経験の差が顕著に出たと言えるかもしれない.

(2)エリア別QSO数について(表1)
1エリアについては、CQNがACIに70局の差をつけて圧勝している。移動局が有利であるのは当然と言えるが、ACIはこれほどの差がつくとは思っていなかったであろう.
2〜5エリアは両者の差はほとんどない.JI3KDH片岡氏によれば、3エリアではCQNの信号の方が強かったという.CQNとしては2〜3エリアで差を付けておきたかったところだが、ACIが南西ビームで長時間CQを出した効果があったがために差は殆どつかなかったと思われる.
6エリアは、CQNの16局に対してACIは41局である.この差はACIがFAIをうまくとらえることができたためであろう.ACIが早めに6エリアのマルチを取っていたためにマルチ探しに時間をとられなかったことも理由のひとつかもしれない.
7エリアもACIが上回った.CQNが12局に対してACIは31局と20局近い差をつけた.ACIの方が北に位置しているということもあるが、それだけとは思えない.CQNは東京方面をねらうために北ビームを使うことが多かったが、その効果があまりあらわれていない.CQNが宮城県のマルチを取るのに苦労していることを見ても北方面に対しては何らかの対策が必要かもしれない.
8〜0エリアについては、大きな差はなかった.

表1 エリア別QSO数

ACI
189
48
25
17
4
41
31
18
7
14
CQN
259
51
29
16
2
16
12
17
4
16

(3)マルチ数の推移について(グラフ3
CQNは東京方面をねらって北ビームでコンテストを開始したため、最初から8エリアのマルチ獲得に成功している.一方、ACIは南西ビームであるため、6エリアをとらえることができた.最初の2時間は多少のばらつきがあるが、朝までマルチ数はほぼ互角で推移した.08時すぎのEsでACIは8エリアのマルチを4つ獲得することに成功.ここまでQSO差によりCQNが得点で上回っていたが、一挙にACIが逆転に成功する.その後CQNがマルチ数を徐々に増やしたことにより、マルチ差は4で終了した.

(4)まとめ
ACI・CQNの総得点はほぼ同じで、互角の戦いだったと言える.CQNは移動局の利点を生かして1エリアの局数を稼いだ.一方、ACIは長年の経験から全エリアからまんべんなく局数を稼いでCQNに迫った.マルチの点ではACIが4つ上回ったが、とりこぼしがあるなど完ぺきとは言えないであろう.CQNは7エリアの2マルチはアンテナの改善やQSYのタイミングなどで取れるようになるだろう.